表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

満員電車にて

 通学途中の駅。

 中継地点になっているその駅で、わたしは偶然に同じクラスの男子に会った。その彼とは、ほとんど話した事もなかったのだけど、なんとなく一緒に電車に乗った。無理に離れるのも変な気がして。ただし、ほとんど口は開かなかった。

 朝のその電車は、いつも混む。満員電車になるのが常だ。その男子は、一応わたしが女である為か、他のおじさんだとかと密着しないように、わたしを守ってくれた。壁に両手をついて、自分の身体を利用して囲いを作り、その中にわたしを入れたのだ。もちろん、自分とわたしの間にも空間を作っていた。力を込めて、わたしと密着しないようにしている。

 満員電車の人の圧力はかなりのものだ。それは重労働だろう。わたしは、少し申し訳なく思った。

 そんな出来事があったからと言って、わたしとその男子は喋るような関係にはならなかった。それまで通り、教室内では何の接点もない。ただ、それからもわたし達は時々、朝の駅で偶然に会うと、一緒に電車に乗るようになった。満員電車。そして彼はやはりわたしを守ってくれる。

 そんな事が何回か続いた後、わたしはなんとなく、彼の姿を自分から探しているのかもしれない、と思い始めた。自分でも気付くか気付かないかくらいの微かな変化。彼も、或いはわたしのその変化に気付いているのかもしれなかった。その上で、それに気付いていない振りをしているように思えた。

 何度乗っても、彼はわたしを守ってくれた。耐え切れずに満員電車の圧力に潰れてしまう事もあったけど、それでも毎回必死にわたしを守ってくれた。

 わたしは申し訳なく思う。

 そんなにがんばらなくてもいいのに。

 でも、ある時に気が付いた。もしかしたら、申し訳ないと思っていたのではなく、わたしは彼に、がんばって欲しくなかったのかもしれないと。わたしに気なんか遣わないで、力を込めた腕を弱めて欲しいと。

 或いは、彼もそれに気付いているのかもしれなかった。


 結局、高校を卒業するまで、わたしと彼に満員電車以外の接点は何も生まれなかった。卒業してから、偶然に駅で会った。方向が同じでわたし達は一緒に電車に乗った。何の因果かやはり満員電車だった。高校時代と同じ様に、彼はわたしを守ってくれた。必死に力を込めて壁に両手をつき、わたしと他の乗客を触れさせないようにしている。まるで、わたしを抱きしめようとしている途中で、時間が止まってしまったみたい。

 必死に満員電車の圧力に逆らっている彼を見て、わたしは何故か怒りを覚えた。

 そんなにがんばるようなことかい?

 それで、なんとなく、無防備な彼の唇に、一方的にキスをしてやったのだ。


 ……まぁ、そんなような話である。

朗読もあったりします。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm24194312

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 忘れていたなあ。こんな気持ち……
2009/08/25 19:53 あんどろ梅太
[一言] 百(難しい童話)先生、満員電車にて、作品読ませてもらいました。ここまですれば、もう立派に(ラブ)モーションかけてる気もするけど・・・(汗)。間接的に主人公の女の娘の可愛らしさを空想させますね…
2009/08/25 17:33 退会済み
管理
[一言] こんにちは、題名に惹かれてやって来ました。 主人公と、名前の知らない彼とのその後が気になるのは私だけでしょうか?(笑)彼の心の内も気になりますね(^_^;) 短編なのに、続きが読みたくなる様…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ